never young beach "fam fam"

<2016年6月8日リリース>

1. Pink Jungle House

2. Motel

3. 自転車にのって

4. fam fam

5. なんもない日

6. 雨が降れば

7. 夢で逢えたら

8. 明るい未来

9. お別れの歌

「僕らには僕らの音があるから、僕らの気持ちいいところがちゃんと聴こえれば、それでいいなって」。阿部勇磨がnever young beachの2ndアルバムに込めた想い。1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』で話題を呼び、1年間に渡るライブ活動で結束を高めてきたネバヤンが新たに放つ作品は、ロックンロール色が強まってバンド感を増し、リスナーの心によりダイレクトに遡求する音楽に仕上がっている。それは『fam fam』というタイトルの文字通り(famは「家族」や「仲間」などを表す、familyから派生したスラング)、仲間とともに今を懸命にかつ楽しく生きる、現代の若者たちの新たな賛歌なのである。

 前作『YASHINOKI HOUSE』は、例えばサニーデイ・サービスがやってきたようなトラディショナルな日本語ロックを、10年代の「若者の歌」として復権させながらも、サウンド面では、デヴェンドラ=バンハートやマック=デマルコといった海外のSSWを意識している点に、アンビバレントな面白さがあった。しかし、それはあくまで「○○のサウンドに近づけたい」という他人への憧憬の表れであり、アイデンティティを確立しきれていないという若者らしい葛藤が同居していたのも事実だった。そこで、2ndアルバムの作成にあたっては、ライブ活動を重ねる中で見出した音を、「ポップスはこうあるべきだ」という制約の中に縛り付けるのではなく、他の誰でもない「僕らの音」として自由に開放させる挑戦が為され、彼らは見事にそれをやり切ったのである。

 結果として、バンドとしての結束力をより強めた、ポジティブさ全開の作品が完成した。「どこへいこうか」という問いかけリピートで、リスナーの気持ちを高ぶらせるM1“Pink Jungle House”や、「よっ!まっちゃん!」という愉快な掛け声でギターソロが始まるM3“自転車に乗って”(高田渡のカバー)など、アウトドアのライブで盛り上がること間違いなしの粒ぞろいなナンバーたち。しかしながら、青空や夏を連想させる明るい作風の裏で、「人の死」や「別れ」を連想させるワードが散りばめられている点に目を引く。例えば、M4“fam fam”では「天国があるのならどんな感じだい?」、M7“夢で逢えたら”では「言わないでよ、淋しいなんて / 僕なら元気でいるよ / 手を振る、また遭えるから」と歌う。阿部自身が体験した親族の死や、未来のことを考えたときに自然と思い浮かぶ自分の死に関して、リリックとして楽曲の随所に落とし込んでいるが、決してそれらは若者の暗い未来を示しているのではない。それを最も顕著に示しているのが、M8“明るい未来”にて歌われる「明るい未来の話 / 例えば僕らが死んでしまっても / あっちでも仲良くやろう / いつまでもそばにいてくれよ」という詞。ネガティブな「死」というものに真剣に向き合いつつも、楽曲の力でポジティブな「生」の意味へと変換してしまうダイナミクスが、この作品の持つ前向きな熱量をさらに高めている。そして、その説得力を増しているのが、“なんもない日”や“fam fam”などのMVに表れている、ネバヤンのバンドとしての固い結束力だったり、あるいは「今を楽しく」、「何があっても俺らは常に一緒という若者として至極当然な想いなのである。

 筆者は現在22歳で、世間一般に言う「若者」の部類に入っている。未来が定まらない中で、今何をすべきなのか分からなかったり、仲間といつまで一緒にいられるのだろうといった漠然とした不安に駆られることも多々ある。だからこそ、この『fam fam』という作品に出会えたことに感謝したい。未来というのは「今」の連鎖なのだから、今を良くしていけばきっと未来も良くなるという前向きなメッセージ。時には、死すらも生きる原動力に変えてしまう不思議な魔法は、まさにnever young beachがオリジナリティとして、「僕らの音」として持つ魅力ではなかろうか。

Written by 信太卓実

TS WONDERFUL MUSIC

音楽ライター目指しています。 いろんな音楽を紹介していくので、ぜひ聴いてみてください!!音楽で人生を豊かに。

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