<1996年2月21日リリース>
サニーデイ・サービス
”東京”
1.東京
2.恋におちたら
3.会いたかった少女
4.もういいかい
5.あじさい
6.青春狂走曲
7.恋色の街角
8.真赤な太陽
9.いろんなことに夢中になったり飽きたり
10.きれいだね
11.ダーリン
12.コーヒーと恋愛
「ぶっちゃけシャーラタンズの前座やったときより、今日の方がはるかに緊張してますよ」。これはシャムキャッツの夏目知幸が、今年2月にサニーデイ・サービスと対バンした際に放った一言。冗談交じりなこの発言は、現代において、サニーデイ・サービスおよびその象徴たる『東京』がいかに重要な存在であるかを如実に表している。そして、『東京』が再評価されているのは、現在から見て、サニーデイ・サービス以前の70年代と、以降の2010年代がオーバーラップする作品だからではなかろうか。
「街へ出ていく」「喫茶店でひといき」「コーヒー」などの70年代テイストな歌詞で飾られる、「きみ」と2人の恋物語。洋楽志向な渋谷系の影響が残留する96年という時代において、曽我部恵一は全曲全タイトル日本語という徹底してドメスティックなアルバム作りを行った。これは以降のサニーデイ・サービスにも見られない『東京』だけの特徴である。そして、『東京』のリリースは、曽我部自身も大きく影響を受けたと語るはっぴいえんどなどの70年代音楽に対して、再度目が向けられるきっかけとなった。1つ1つ噛みしめるような象徴的な日本語詞によって、時代との違和感をあえて演出し、曽我部自身の原体験である70年代にインスパイアされた世界観を見事に表現しきったのである。
そして、2016年現在活躍するバンドたちの中にも、アルバム『東京』の遺伝子が脈々と受け継がれている。例えばnever young beachのように、「なんてことのない」日常で生きる若者を高らかに歌い上げるバンドもいれば、シャムキャッツのように甘くほろ苦い青春や恋愛を歌うバンドもいる。すなわち、『東京』の中で作られた曽我部流の「青春喫茶ロック」は、サニーデイから影響を受けた若手バンドたちの指針になっており、単に20周年を迎えたという事実だけでなく、近年の音楽ムーブメントを踏まえれば、再評価されるのは至極当然なことだと言える。
『東京』のリリースによって、『風街ろまん』が新たな意義を見出したように、2016年という時代の中で、今度は『東京』に新たな価値が与えられることとなる。サニーデイ・サービスがこの作品を生み出さなければ、90年代は(ポスト)渋谷系支配下のままで終わり、中村一義やくるりなどの後続の誕生や、近年「シティポップ」として括られるバンドの充実もありえなかったかもしれない。『東京』は“70年代と今を繋ぐ”という唯一無二の役割を果たした1枚である。
Written by 信太卓実
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