<2016年2月17日リリース>
藤原さくら
"good morning"
1. Oh Boy!
2. 「かわいい」
3. I wanna go out
4. maybe maybe
5. How do I look?
6. 1995
7. BABY
8. good morning
9. Give me a break
10. これから
11. You and I
もう1年以上経っただろうか。まだあどけなく、可愛らしい見た目からは予想できない成熟した歌声に驚き、タワーレコードの視聴機の前でただただ夢中で彼女の歌声に聴き入り、即座にCDをレジへと持って行ったあの瞬間から。2016年現在、藤原さくらはインストアライブや小さなライブハウスでは収まりきらない多大なる人気を誇るシンガーソングライターへと成長を遂げた。
今夏のツアー抽選はすでに激戦となっているようだが、彼女の人気を支えているのは月9ヒロインに抜擢された事実だけにとどまらない。2月にリリースされたメジャー1stアルバム『good morning』を聴けば、その人気はやはり音楽性に集約されていると改めて認識することができる。
インディーズ時代の作品『Full Bloom』を聴けば、10代にしていかに彼女が早熟な才能を持ち合わせていたかを感じ取れるだろう。昨年メジャーデビューを果たした後、満を持して今年2月にリリースされた新作『good morning』は、豪華な演奏陣に支えられて、よりジャズ色を強め、藤原さくらが持つ歌声の魅力をさらに引き出す形となった。
デビュー当時から「和製ノラ=ジョーンズ」として、彼女の歌声は大々的にプッシュされてきた。確かに、ベースラインとジャズドラムが似合うスモーキーな歌声は、まさにジャズボーカリストのそれであり、ブルーノートに出演したという事実にも十分頷ける。しかし、ジャズ色が強い、簡単に言ってしまえば「大人っぽい」という言葉だけで藤原さくらの音楽性を語ってしまうのは何とももったいないような気がしてならない。
尊敬するミュージシャンにポール=マッカートニーを挙げ、目指すソングライター像としてはYUIを挙げる。そう、藤原さくらが目指すのは、ニッチな大人っぽい世界の追究ではなく、誰もが口ずさめるストレートなポップシンガーなのだ。ジャズへの傾倒は見られるものの、楽曲の本質はシンプルなJ-POPであるという点に、藤原流ソングライティングの魅力がある。アルバム『good morning』に散りばめられたJ-POPとジャズの絶妙なさじ加減に、リスナーとしては舌鼓を打たざるを得ないのである。
シンプルなコード進行に、技巧的なジャズアレンジ。それでいてリリックは、覚えやすく口ずさみやすい英語詞と、素直で女の子らしい恋愛観を著した日本語詞の交差。そして、すべてを「藤原さくらの世界観」に落とし込む、天性のスモーキーボイス。こうした魅力が余すところなく盛り込まれ、イントロが鳴っただけで「藤原さくらの曲だ」と分かるくらい個性的な11曲が詰まった新作『good morning』。弱冠二十歳にしてこれほどの作品完成度を誇ったシンガーソングライターは、現在日本にどれくらいいるだろうか。本作は、2010年代ギターミュージックの新たな扉を開ける、文字通り「挨拶代わり」の一枚になるだろう。
藤原さくらのライブでは、派手な演出は一切ない。動き回ることなく椅子に腰かけてアコースティックギターを鳴らし、演奏力と歌声だけで観客を魅了する。私はこれまで何度も藤原さくらのライブに圧倒され、このシンプルさこそが、シンガーソングライターが行うライブの究極形であると感じてきた。人気を獲得して会場が広くなっても、変わらずそのスタイルを貫き、より多くの人々に藤原さくらの魅力を感じ取って頂きたい。『good morning』を携えてのツアーが非常に楽しみだ。
Written by 信太卓実
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