現在の日本のアーティストで、「世界進出」というワードを最も想起させるのはBabymetalだろう。アイドルとメタルのハイブリッドという、非常に特異的かつ日本的な掛け合わせによる世界征服は、邦楽界にとっても世界中のメタルファンにとっても大変意義深いブレイクとなった。しかし、真の意味で00年代後半以降のアイドルグループの復権を先導し、地道な努力と堅実なリリース、ライブ活動によって海外進出の道を切り開いたアーティストといえば、やはりPerfumeだろう。アルバムを引っ提げてライブを行うたびに成長意欲を高め続けてきた、あ~ちゃん、かしゆか、のっちの3人が、2016年4月に約2年半ぶりとなるアルバム『COSMIC EXPLORER』をリリースし、日本各地を巡る全国ツアーも行った。また、本稿を執筆している2016年8月末現在は、Perfumeの3人が自身初となる北米ツアーを行っている最中である。自らを「COSMIC EXPLORER=広大な宇宙の開拓者」と名乗っているのは、これまで3度のワールドツアーを経験し、今回の北米ツアーで更なる高みへ昇っていきたいという、彼女たち3人の決意の表れである。本稿では、最新アルバム『COSMIC EXPLORER』および全国ツアーに触れながら、まさに前人未到のNEXT STAGEに到達しようとする「2016年のPerfumeの魅力」について紐解いていきたい。
2016年4月、アルバム『COSMIC EXPLORER』発売日当日。リリースを待ち望むファンが店頭に並んで意気揚々とCDを購入していく中で、私は一抹の不安に駆られていた。なぜなら、Perfumeは2015年に「結成15周年&メジャーデビュー10周年」というあまりにも大きなアニバーサリーを迎え、ドキュメンタリー映画公開や武道館ライブ、そして集大成ともいえる楽曲“STAR TRAIN”を作り上げ、まさに総力を注ぎ込むような活動をしていたからである。そしてアニバーサリーイヤーを終えた2016年、果たしてPerfumeがどのような活動を行うのか、まったく予想がつかなかった。この予想のつかなさをワクワクや期待と呼ぶ人もいるだろうが、私にとっては間違いなく不安だった。果たして彼女たちは心のどこかでやり切った感を募らせたまま、2016年に突入してはいないのだろうかと…。
こんなことを考えていた4月の私を、今の私は心の底からビンタしたい。なぜなら、アルバム『COSMIC EXPLORER』は、「アニバーサリーイヤーですらほんの通過点にすぎない」とあっさり感じさせてしまうほど、素晴らしい作品に仕上がっていたからだ。本作を聴きながら、2015年9月の会見で、あ~ちゃんが放った一言がふと脳裏によぎった。「まだまだPerfumeから目を離さないでください」。まさにその通りである。猛省した。
アルバムを一聴して感じたのは、プロデューサー=中田ヤスタカのサウンドメイキングが、息つく間もないほど攻めを意識していること。そしてアルバムタイトル通り、宇宙を意識したかのように空間の制約を感じさせず、どこまでも伸びていくような壮大なサウンドアレンジメントが印象的だ。1曲目”Navigate”で宇宙空間に放り出され、無重力状態で約1分間の漂流を経たのち、広大な大地に降り立ち、ゆっくりと新たな歩みを進める2曲目”Cosmic Explorer”へと続く。そして、きらきらと光が水面にはじけるようなサウンドが印象的な3曲目”Miracle Worker”、ナイル=ロジャースを彷彿とさせるカッティングギターのイントロから流麗なエレクトロサウンドへと展開する4曲目“Next Stage with YOU”、ことばを抑えてサイケデリックなシンセに重低音と音遊びを混在させた5曲目“STORY”の流れは、もはや圧巻としか言いようがない。特に”STORY”は、2015年のSXSWおよび武道館ライブでパフォーマンスが披露されており、楽曲を聞くだけで、自然とスクリーン(本人たちは網戸と呼んでいたが笑)の映像と本人たちが混在する華麗で壮大なパフォーマンスが脳裏に浮かぶ。6曲目は映画『ちはやふる』の主題歌として話題になった”FLASH”であり、その後も既存のシングル曲たちをAlbum-mixを交えながら立て続けに並べ、最後の最後まで攻めまくるラインナップだ。
しかし、ただ単調にアップチューンを乱立したアルバムではなく、1曲ごとに作り手のこだわりを感じ取れるのも大きな魅力だ。例えば、8曲目に収録されたミドルテンポな”Baby Face”が、攻撃的なアルバムの中で良い緩衝材の役割を果たしている。インタビューでは「ついに年下男子の曲が出てきちゃったか~!」と笑い飛ばしていた3人だが、ワールドワイドなアーティストになっても、こうしたふんわりと可愛らしい曲を歌えることに、今のPerfumeにしか持ちえない圧倒的なアドバンテージがある。
さらに注目したいのは、3人の歌い分け。2011年のアルバム『JPN』にて、より顕著にメンバーの声質を意識し始めた中田ヤスタカは、『JPN』のみにとどまらず、攻撃性の強い本作でも見事に3人の声の特徴を掴み、聞き手をハッとさせる歌い分けを行って見せた。これらが顕著なのは、先ほど挙げた”Baby Face”や、”Miracle Worker”、”Sweet Refrain”、“TOKIMEKI LIGHTS”、そして“STAR TRAIN”といった楽曲たちだ。声質の異なるあ~ちゃん、かしゆか、のっちの3人が、どのタイミングで何を歌えば聞き手の心にグッと刺さるか、曲作りを重ねるごとに中田自身もその見極めスキルを高めているように感じる。思えば、capsule、きゃりーぱみゅぱみゅ、三戸なつめなど、中田がPerfume以外で曲作りを行う際のボーカリストは一人であることが多い。つまり、歌い分けという要素で曲の面白さを高められるのはPerfumeだけであり、メンバーの個性を大切にするPerfumeのプロデュースにおいては、それ自体が重要なファクターなのだ。メジャーデビュー当時を思えば、エフェクトを多用することこそがPerfumeらしさだったが、それももう過去の話。今は3人のより生に近い声で、どこまで作品の質を高められるかというNEXT STAGEに差し掛かっている。
このように全編通して攻めの意識を露わにし、まだまだ世界を躍らせ続けるという気迫に満ちたアルバムを届けてくれたPerfume。しかしご存知の通り、彼女たちの作品はライブでのパフォーマンス披露をもって初めて完成となる。そのうえ、今回はアニバーサリーイヤー明け最初のツアーということで、お祝いムードに縛られない「Perfumeの真価が問われるツアー」ということにもなる。
大きな注目が集まる「Perfume 6th Tour 2016 COSMIC EXPLORER」は、全国7都道府県を巡るツアーとなった。大阪・名古屋・福岡を大胆にもツアーから外したのは、「今まであまり訪れていなかった場所でライブしたい」という彼女たちの思いやりの表れ。私は6月の幕張メッセでのライブに参加し、世界に羽ばたくPerfumeの「今」をしかと見届けてきた。アルバムを繰り返し聞くたびに、これほどまでダイナミックで、かつ細部までこだわり抜いた楽曲たちをどのように演出として結実させるのか、非常に楽しみだった。
2016年6月19日、Perfume 6th Tour 2016 COSMIC EXPLORER幕張公演最終日。ついに私がライブに参加する日を迎えた。例年Perfumeのツアーには2公演以上参加していたが、今年は社会人として仕事が始まったこともあり、この1回しか見る機会はなかった。ライブのすべてを目に焼き付ける。そんな気持ちで開演を待った。まだかまだか…。Perfumeの登場を待つ開演前の手拍子にも、いつも以上に力が入った。オールスタンディングの会場だからか、観客同士の距離が近く、熱気もかなり充満していた。3万人がPerfumeを呼ぶ声援は、まるで日本中に響き渡っているのではないかと思うほど大きかった。そして予定時刻を10分ほど過ぎたころ、突然会場は暗転する。始まったのだ。重低音が鳴り響き、会場を包み込む。巨大な複数のスクリーンが円形のステージをゆっくりと囲い込み、1曲目が何なのかすぐに悟った私のボルテージは早くも最高潮へ。そして….Perfumeの3人が現れた!!高まった。そして….気付いたら終わっていた。3時間。圧巻だった。
すっかりおなじみとなった“Story”のド派手なスクリーン演出で幕を開け、3人は天を舞う。アメリカですら驚かせたこの“Story”のパフォーマンスを1曲目に終わらせることで、2015年は通過点に過ぎず、2016年はさらにそれを超えていくという宣言を堂々と行ってみせたのだ。序盤を締めくくるダンスチューン“FLASH”では、冒頭のかしゆかの歌声がスッと入ると同時に会場は大声援に包まれた。バキバキのダンスチューンになると思われていた“Next Stage with YOU”は、意外にも観客が一体となって踊れる、良い意味で緩めの演出に生まれ変わっていて楽しかった。本ツアーの目玉である楽曲“Comic Explorer”の演出は、幕張メッセという広い会場を宇宙空間として有効活用したあまりにも美しいもので、Perfumeの3人が新たな大地に降り立つという演出は、まさに私がアルバムを聴いたときのイメージを体現したものだった。そしてAlbum-mixで生まれ変わった終盤の“Cling Cling”は、フロアをEDM状態に塗り替えるには十分だった。最後は“STAR TRAIN”で締め、全米ツアーに向けた自信を堂々と掲げて見せた。アルバムが内包していたダイナミズムを、ライブでさらに増幅させパフォーマンスに昇華させてきた。実に見事だ。
そしてライブを見終わったとき、「なぜPerfumeが唯一無二の存在として人気を誇っているのか」という、自分の中ではっきりしていなかったその理由を、Perfumeの真価を、アニバーサリーイヤーを終えた2016年の今だからこそ明確なものにすることができた。私はそれを、「今を魅せるセットリスト」と「アットホームなダンスフロア」の2つに集約したいと思う。
1つ目の「今を魅せるセットリスト」とはすなわち、ヒット曲に縛られることなく、「自分たちが今やりたいのはこれなんだ!」という明確な意志を持ってセットリストが決められているということである。ワールドワイドに活躍するアーティストには少なからずヒット曲が存在し、それらはライブでの定番曲として必ずセットリストに組み込まれる事例が多い。Oasisなら”Live Forever”や”Wonderwall”, “Don’t Look Back in Anger”、Red Hot Chili Peppersなら”Give It Away”や”By The Way”、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなら“リライト”や“君という花”、ONE OK ROCKなら“完全感覚Dreamer”などなど。「今の自分たち」を魅せることにかなり力点を置くUKのArctic Monkeysといえども、定番の”Brianstorm”と”I Bet You Look Good on the Dancefloor”はライブで欠かせない。ことPerfumeにおいて、こうした定番曲に当てはまるのは“ポリリズム”と“チョコレイト・ディスコ”だろうが、今回の6th Tour COSMIC EXPLORERでは、ついに定番であったこの2曲を封印してライブを行った。正確に言えば、2014年の「5th Tour ぐるんぐるん」から、すでに“ポリリズム”をセットリストから外すという大胆な試みを行っていたが、それでも“チョコレイト・ディスコ”をライブでやらない日はなかったというのに、今回のツアーではとうとう“チョコレイト・ディスコ”すら聴くことはできなかった(もちろん、日によっては披露されたこともある)。だが不思議なことに、ライブ終了後に消化不良な感覚に陥ることはなく、「そういえば今回は定番の曲をやらなかったな」と気づいたのは、ライブが終わってからだいぶ時間が経ってからのことだった。
定番曲なしでもライブが成立するということは、その他の楽曲およびツアーで引っ提げているアルバムに絶対の自信を持っているということである。また、裏を返せば、ファンの中でも人気楽曲が偏らない強みだと言い換えることもできる。アルバム『COSMIC EXPXORER』がこれまでで最も攻める作品に仕上がっていたのは、Perfumeの今の自分たちに対する絶対的自信の表れであり、ファンとの阿吽の呼吸で培われた唯一無二の信頼の証なのだと解することができた。上述した名だたるバンドたちですら、この領域には辿り着けていないのだから。
2つ目の「アットホームなダンスフロア」とは、Perfumeのライブに流れる特有の空気感そのものである。畳みかけるエレクトロサウンドやレーザー演出で観客を躍らせ、ライブ会場をダンスフロアに変貌させたかと思えば、広島弁交じりのMCや愉快な観客チーム分け、一緒に声出しをして会場が一体となるPTAのコーナーなど、オーディエンスをアットホームな空間に誘い込む緩さもある。もちろんオーディエンスを煽って盛り上げるアーティストは数多いるが、Perfumeほどパフォーマンスとトークの緩急を自在に操るアーティストはいないのではないか。この振れ幅の大きなパフォーマンスこそ、Perfumeライブの最大の特徴であり、醍醐味であり、カッコ良さである。そして、このスタイルはフェスの舞台でもO-Westでも東京ドームでも幕張メッセでも、そして海外であっても全く変わることはない。
幼い頃から同じメンバーでステージに上がり続けてきたPerfumeの3人は、早期からライブスタイルを確立させることができたうえに、他のどのアーティストよりも「お客さんを楽しませる方法」を知っている。だからこそ、Perfumeのライブ空間には常にお客さんへの想いが溢れている。会場が広くなり、パフォーマンスが高度化し、楽曲が多様化し….何より本人たちが年齢を重ねて大人になっていっても、Perfumeのライブにはいつも同じ空気が流れ続けている。これが「アットホームなダンスフロア」へと結実するPerfumeの根幹であり、絶対にこの軸はぶれない。だからこそ、「今を魅せるセットリスト」というチャレンジをしつつも、「アットホームなダンスフロア」という基本スタイルを徹底的に貫くことで、ライブの魅力を発展させスケールアップさせることに成功したのだ。
変わらない中で、何を変えていくか。
変わっていく中で、何を残していくか。
アルバム制作でもライブパフォーマンスでも、この難解な問いと格闘しながら、常にPerfumeはNEXT STAGEへの階段を昇り続けている。自分たちの新しい作品に強い自信を持ち、常に最新のセットリストへと更新していける絶対的な意欲。加えて、変化と挑戦を繰り返しながらも自分たちの「アットホームなダンスフロア」というスタイルを貫く絶対的な基盤。この2つを兼ね備えたアーティストは、世界を見ても間違いなくPerfumeだけである。そして、“Cosmic Explorer”の中で「Break new ground, Seek new field」と歌い上げるとおり、彼女たち自身も過去の自分を超えんとする努力と挑戦を惜しまない。
だからPerfumeは世界から愛されるのだ。
だから「今」のPerfumeが一番かっこ良いのだ。
Written by 信太卓実
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